8月1日
国立チャイコフスキー弦楽四重奏団
演奏会

「大家、久し振りだなあ」
「あんたは、実は身分のある侍なのに、誰も気付いていない振りをしている設定の、金さん」
「説明が長い」
「関東に帰ると、とにかく人物が沢山いるもので……へい」
「誰と話しているのだ」
「こっちの話で」
「さて、1日の演奏会」
「そう。ロシアの国立チャイコフスキー弦楽四重奏団。予定ではすでに関東に帰っているつもりだったのじゃが、向こうからぜひ来てくれと招待されたので、予定を変えて行ったのじゃが、まあそれだけの価値がある、素晴らしい演奏を聴かせてくれた」
「いちいち説明が長い……右上が会場じゃな」
「いや、これは芸文館、このあたりで最も大きな演奏会場じゃ」
「じゃあ左下が会場……」
「これは市民会館。そこそこ大きな会場じゃ」
「……いったい、どこでやったのじゃ」
「一番下右にある写真の公民館。舞台がちょっと狭いが、弦楽四重奏としてはちょうどいい広さじゃな」
「じゃあ、演奏について」
「まずハイドンの『皇帝』ではアンサンブルの見事さ。全体が一つの楽器のように鳴りわたった」
「ほう」
「続くモーツァルト10番、もちろん弦楽四重奏曲じゃよ。今度は4つの楽器がそれぞれの音色を生かした演奏じゃ。ところが、伴奏は前と同じように他との調和をしている。ピチカートなど、ポツンと切るのと、ポーンと響かせるのを全員が同じで演奏している。これは普段から一緒にやっているから、響きの様子、強弱まで、完璧」
「すごいのう」
「休憩をはさんでボロディン2番から夜想曲だけ。この曲では繊細な響きの美しさを聞かせていた。実は楽章が終わるごとに拍手をするお客さんだったのじゃが、この曲が終わると拍手を忘れて酔いしれていたぞ」
「それだけ素晴らしかったのだな」
「そうじゃ。続くチャイコフスキーアンダンテ・カンタービレも同じじゃ。まあみんなのよく知っている曲ばかりだし、あっという間に時間がたって、最後の曲。ショスタコーヴィッチ8番。不安定な音程からソロと伴奏のアンバランス、それぞれの楽器の対立と調和、音の作り方が実に素晴らしい」
「実力も疑いないな」
「アンコールにロシア民謡から……後で話をしてもらおうと思ったら、疲れているので勘弁してくれ。じゃあサインをと言うと、嫌だとわがままを言う……じゃあ土産をということでもらったのがCDじゃ」
「あいかわらずだな」
「『アンコール』というCDでもちろん日本では市販されていないが、今回の曲も含め、抜粋したものじゃ。全曲でないのは残念じゃが、まあこれで許そう」
「仕方のない奴じゃ」

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