4月2日 新宿末廣亭 夜席

「さて、新宿末廣亭夜席のご報告」
「大家、しっかり報告いたせよ」
「あんたは若君……いや、若さん」
「夜席は5時に始まるのじゃな」
「そう。まず神田きらりの講談『山内和豊の妻』の冒頭。前座だから、こんなものじゃろう」
「交替出演は誰になった」
「いや、プログラムに入っていない春風亭鯉太君が来て『転失気』を演じた」
「それは、3月末に『六ツ川寄席』で一緒になった男じゃな」
「そう、出し物も同じ……しかし、今夜の出来はひどかった……時間配分が分からなくなったのじゃろう。近所の店に行く場面は無駄が多いし、落ちまで行けずに時間切れ……こう失敗も大事な修行じゃ。頑張れ」
「今日は大家、優しいのう」
「差し入れもしておいた……若い者は頑張らないと……」
「続いて春風亭美由紀
俗曲じゃ。先月は『さくら』のとてつもない高いキーに驚いたが、今日は低い音程の魅力があった。もちろん差し入れをしたぞ。昨日はとてつもなく暑くなり、熱気があったのに、今日はまた寒くなった……新真打の将来も必ずしも順調ではない……よくぞ言った。なかなか言えないものじゃ……もう立派な親方じゃな」
「相撲ではあるまい……次は春風亭柳好
「どうしたのじゃろう、ヌキじゃ」
「では春風亭柏枝
「『子ほめ』を演じた。前座がよく演じる噺じゃが、ある程度の人が演るとこんなになるんだという見本のようなネタだな」
「次は……」
「ここで飛び入り……」
「え……飛び入りがあるのか」
「時々素人さんが加わるのじゃ」
「本当か……」
「嘘じゃ」
「カク……誰が出たんだ」
姉様キングスじゃ」
「殿様……」
「いや、姉様」
「……何なんだそれは」
「上方落語のあや女染松が女装して登場……」
「二人とも男なのか」
「いや、あや女は女性じゃ」
「……訳が分からない……」
「話題の人物折り込み都々逸から、ご祝儀に松尽くしを演じた」
「なぜこんな飛び入りがあるのじゃ」
「今日のトリの鯉朝師匠の友達なのじゃ」
「なるほど……さて、次はマジック松旭斎小天華
「あざやかじゃが、昼の部の八重子と同じ部分が多かったな」
春風亭柳桜
「『居酒屋』を演じた。前の金馬が磨いた作品だが、これを完全に自分の世界に作り替えた……見事なものじゃ……闘病生活を描いた(?)手記が出版され、サインをいただいた。右がその表紙じゃ」
「続いて三笑亭夢太朗
「『病院アラカルト』。漫談風の一席じゃ」
Wモアモア
「漫才。いい雰囲気だ。愚痴を言うのに筋が通り、それが世相や社会批判にもつながる」
瀧川鯉昇
「当然差し入れを持って行った。出し物は得意中の得意『粗忽の釘』。時間の関係で向かいの家に行くのを省略……客席の興奮で寄席がグラッと揺れるほどの熱演じゃった」
「そんなにすごいのか」
「ちょうど地震が起こった」
「何だ……仲入り前は春風亭小柳枝
「『時蕎麦』を演じたが、丁寧な作り、蕎麦を食べる仕草ですごい拍手が起こってしまった……もちろん差し入れを持って行った」
「大変じゃのう……さて、仲入り後は」
「真打披露口上じゃが、落語の場合は本当におかしいな……並んでいるのは春風亭柳昇師匠の弟子ばかり……順位から言うと、小柳枝鯉昇、司会を努める昇太、それから新真打の昇乃進(現小柳枝の弟子)、鯉朝(現鯉昇の弟子)、柳之助(現小柳枝の弟子)……落語芸術協会を代表して副会長の小遊三だけが、他の一味じゃ」
「面白いな。しかし、会長は出ないのか」
桂歌丸会長は昨夜入院された」
「笑点の司会がまた……」
「いや、予定通りの手術じゃから、ニュースにもならん。正式に笑点の司会として、完璧に勤めようとするための入院じゃ」
「で、口上は」

「司会の昇太小遊三が逆襲したり、色々面白いことがある……落語の真打披露は見る価値があるなあ」
「さようか……その後は新真打登場じゃな。まず昇乃進か」
「おなじみの『課長は辛いよ』……受けてはいたが……わしも初めて聞いた時はそこそこ面白味も感じたはずじゃが、
10年も時代遅れの噺……昔こんな時代があったなとは思うが、あまりに作りすぎた典型的な人物……年寄りから見るとおかしみもあるが……わしにはもう時代遅れの噺にしか見えない。全く笑えなかったのはこの噺だけじゃ……何か脱皮が必要じゃと思うのじゃが……本人がこれで満足しているようにしか見えない」
「酷評じゃな……続いて新真打二人目の春風亭柳之助
「『蒟蒻問答』を丁寧に演じていた。これまであまり注目していなかったが、これは本物になりそうじゃな」
「続いて東京ボーイズ
「本来ならもう降りて5分も経っている時間に舞台に上がるという……全体に熱演で遅れておる」
「大変じゃな」
「3人が全くかみ合わないというのがおかしいな……リーダー、足元が危ういが大丈夫かな……」
春風亭昇太
「相撲をネタにした新作……ネタ下ろしかな……とにかく早口で始まり、あっという間にネタに入り、トントン拍子で落ちまで突っ走った。なぜかウマがあう……先日の写真を見ておくれ……差し入れもしたぞ……やっぱりはりきっているな」
「何かあるのか」
「『笑点』司会者の歌丸師匠は入院してしっかり勤めようとしている。実はこの昇太にも、重大な任務が与えられるのじゃ……詳しくは追って発表があるじゃろう」

三遊亭小遊三
「こちらも差し入れをしておいた。ご祝儀に『運回し』……本来は『寄合酒』という題名で演じられるが、新真打へのご祝儀で運がつくようにというネタになるのじゃ……すごいのは新しい『ン』尽くしを沢山入れていたことじゃ」
ボンボンブラザーズ
曲芸じゃが、これもテンポ良く短くまとめたな。小遊三師匠が『遅れているから、新真打が出てから帰るな。自分の出番中にも帰るな。帰るならボンブラの時に……』ってのがおかしかった。しかし、手際はよいし、いい調子で進んだ」
「さあ、トリは瀧川鯉朝
昇輔が真打を機に改名したのじゃ。真面目でいい子じゃよ。もちろん差し入れをして、記念の手ぬぐいをいただいて来た。うれしさが伝わって、ちょっとテンションが高かったが、何を演じようかって……悩んでいたが……さて、古典を取り上げるかと思ったら、前にアクシデントで急遽トリを取った経験があるそうで……その時の思い出の作品『子供達の冒険』を演じた。ああ、こんな新作も出来るんだな……」
「古典が得意なのか」
「得意かどうかは本人の意識じゃろうが、わしが聞いていて古典がいいと感じる。ただ、大人しい方の若旦那とか、気の弱い人物、これに味がある。本人にも『感動で泣くなよ』って声が(わしを含めて)何人からか掛かった。子供の可愛さが出ている割りに、シビアな内容じゃ。尚、右上が記念の手ぬぐいじゃ」
「すると大いに問題提起もあったが」
「昼から通して、これだけ満足した席も珍しい。半分でも疲れるものじゃが、丸9時間、本当に堪能した1日じゃった」
「朝4時半の汽車に乗った甲斐があったな」
「はい、そういう訳で」

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