4月2日 新宿末廣亭 昼席

「親分、寄席の報告ですね」
「親分……みんなわしを大家さんと呼ぶが……また突然思いついたな」
「誰が」
「いや、こちらの話じゃ。思いつきで生まれたばかりのキャラクターじゃな……泥棒か……口調が小遊三風になっているのが気になるが……」
「親分、何をもそもそ言ってるんですか」
「さて、『新宿末廣亭』へ行って来た」
昼席の報告だな」
「そうじゃ。前座は笑福亭和光の『弥次郎』。いいね、前座としては上々じゃないかな」
「前座としてはって台詞が引っ掛かるね」
「そりゃあ大御所が演ると人物が生き生きとして来る。面白い話としてただ伝えるのではない」
「難しい話はまあいいや」
雷門花助の『豆屋』もそうじゃな。文治師匠がよく演じていて、実は人物を見事に描いたがために、子供心にひどい話だと思って……あまり好きではなかった」
「それがこの日は違った」
「そうじゃな。悪人が弱くなるが、とにかく明るい調子で引っ張り、不快感が残らない演じ方になっていた……これは聞く方のわしが慣れてしまったのではあるまい」
「まあいいや。さて、顔ぶれによれば次の出演はぴろき
ギタレレ漫談、とにかくおかしいね」
桂歌助
「差し入れを持っていった。1月前ほどに亡くなった円右師匠の作品『都々逸親子』を演じた」
「本店で応援している夏丸君も演じているな」
「落ちまでちゃんと行ったが、夏丸君の系統と都々逸や演出がちょっと違う。もともと同じネタでも、演者が磨いていくのじゃろうな」
桂小南治
「珍しい『写真の仇討』を演った。どういう動作で落ちになるのか、興味深く拝見した」
都家歌六
「おなじみのシンギング・ソー、鋸音楽じゃ。去年から『ベネ』『ブラボー』『アンコール』と声を掛けているので差し入れを持っていった。最初はいつもの通り『憧れのハワイ航路』、今年はモーツァルト生誕250年ということで、後はモーツァルトの『恋とはどんなものかしら』、ブラームスの『ハンガリー舞曲』と続いた。もちろん『アンコール』と叫んだ。それだけの価値ある演奏じゃ」
三笑亭夢丸
「この師匠には特別の差し入れを用意しなければならぬ。今月号の『東京かわら版』46ページ参照」
「出し物は」
「お得意の『辰巳の辻占』、おや、前に聞いたのと辻占が違うな」
三笑亭笑三
「席の方に差し入れを頼んでおいたのに、残念ながら代演じゃった。三遊亭小円右で『元犬』。菊之丞が演じた時、犬だった男の描写を丁寧にやっていた。今日のはテンポ良く犬と人間の会話を聞かせた」
「次は松旭斎八重子
マジックじゃ」
「続いて三笑亭可楽
「『臓器屋』……ネタ下ろしだったようじゃな。この人のネタはいつも不思議。『高校野球』では歴代優勝校を上げ、去年はこれにその演じた当日までの試合の全結果を並べて喋ったことがある」
「それはすごいね」
「今回のネタは色々な臓器を移植するが、この人のこれはどうだこうだという……面白いが、ネタ下ろしかなと思ったのは、言いよどみが多いのと、落ち前で間違えて決まらなかったから……しかし、致命的にならなかったのは、そこまでのネタがよく受けていたからじゃな」
「次は三遊亭遊三
「『親子酒』を演じた。親父が1杯2杯と重ねて行く様子を丁寧に描いていた。これは見事な演出じゃった」
新山ひでややすこ漫才
「ちゃんと差し入れを持って行ったぞ。今日は夫婦で言い争った末、離婚式というネタで締めくくった。結婚式の逆をやって行くものじゃ」
「仲入り前は桂米丸
「もちろん差し入れを持って行った。本をいただいてお話しした後、ご挨拶がなかったので」
「出し物は」
「『ジョーズのキャー』、三段落ちの完全版じゃった。何度か聞いたが、これが正式の落ちになるのじゃろう」
「仲入りの間も忙しかったでしょう」
「本をいただいた。いずれ紹介しよう」
   ※ ※ ※   お仲入り   ※ ※ ※
「さて、食いつきは桂歌春
「去年一緒に撮った写真と差し入れを用意しておいた。今日のは前座時代を描いた漫談風のものだったが、放送などでは好ましく感じない口調や言葉遣いが、ナマで聞くと面白いのはなぜじゃろうな……良かったとしか言えない」
林家今丸
紙切りじゃ。いつもお世話になっているので差し入れを持って行った。遠慮深いお客様ばかりだったのでわしが『真打披露』をリクエストした。右がその作品じゃ。尚、岡山から来たのはわしじゃ」
「その場にいない人に分からないネタを言わないの……三笑亭夢之助
「『動物園』だが、雇われるまでの経緯が詳細で面白かった」
古今亭寿輔
「この人は本当に不思議な人じゃ……放送ではちっとも面白くないのに、ナマで接すると笑わずにはいられない……おなじみの『自殺狂』だったが、品のないネタがあり、本人も品があるとは思えない……」
「ひどい言い方だね」
「だから、本来は、わしは大嫌いな筈なのじゃ……放送で接して、この人は絶対に好きになれないと思っていた……ああ、それなのにそれなのに……『トイレ・アラカルト』を聞いて大笑いしてしまったし、今日のネタも知っているのに笑う……ううん、やっぱりうまいのじゃろうな……」
 「松乃家扇鶴
俗曲じゃが……どうもこの人の語尾が上がるのはついて行けない……残念ながら今日も……」
「今日は全部良かったのに、この人だけはダメかい」
「ううん……わしの好みと合わないとしか言いようがないな……」
「で、トリは笑福亭鶴光
「『竹の水仙』を完全に上方版にして演じた。よくこなれており、自分の物になっている。人物の描写も見事、ううん……欠点がないと言っていい、素晴らしい高座じゃ……わしは差し入れを持って行かなかったのじゃが、その場で祝儀を投げ込んだ」
「そのくらい良かった」
「そうなのじゃ……とにかく、読んでいただいた通り、最初から最後まで、ほとんど上出来……すばらしい出来だったぞ」
「……と言いながら、夜席までそのままいたんだろ」
「そうなのじゃ」
「料金も払わずに」
「もちろんじゃ」
「で、夜席のトップは」
「それは次のページで紹介しよう」
「あらら……セコく逃げるね。ところで、右上の写真は」
「寄席で打っている『寄席の華』というお菓子じゃ」

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