3月27日 お江戸日本橋亭

「今日はお昼に三遊亭円右師匠の葬儀に参列、新宿へ出て昼食をとり、楽譜がほしかったので銀座へ寄って、そのままお江戸日本橋亭へ」
「お忙しいことで」
「前座は智太郎?、新人で漢字が分からない。『痴』かも」
「それは失礼でしょ」
「『子ほめ』の途中まで。まあこれからの人ということで……もう一人の前座が橘ノ冨多葉、『転失気』を演じた。わしが行くとよく『ラブレター』を演じていたが、痴楽のままで時代錯誤な部分が多い。中で3曲ほど歌謡曲が出るが、わしらの年齢でも懐メロとしてしか聞いたことのない曲ばかり。現代を取り入れないと生き残れないぞ、と苦情を申し入れたこともある」
「今日の『転失気』は古典ですね」
「そうじゃ。
この噺は普通に演じても『転失気』の正体が分かったとたんにぱっと客席が明るくなる。この日の冨多葉は人物もしっかりしていたし、粗筋では書けないちょっとした台詞が洒落ていた。なかなかだったな」
冨多葉さん、初めてほめられました。さて、ここからプログラムに載っている人で……まず神田京子さん」
講談だが、ギャグや大袈裟な表現が多いな。わしは何か違うと思う……まあ、講談は聞き込んでいるとは言えないから……」
「歯切れが悪いね。この日は三遊亭遊之介が2席演じるんですね」
「若手勉強会なのじゃ。しかし、今日円右師匠の葬儀に出て、『次に死ぬのは自分かも知れない』なんて考える年ではないだろう……ギャグなのかな……」
「落語は」
「1席目は『雛鍔』、植木屋夫婦と子供、隠居、それぞれの台詞がいいな。ちょっと滑舌が悪いから、隠居に重みが足りないが、これは演者の持ち味で仕方がない、それ以上に植木屋と子供がいい。上出来じゃよ」
「中トリは春風亭小柳枝師匠」
「お得意の『小言幸兵衛』、いつも言っている通り、台詞の切れがいいぞ。江戸っ子の啖呵をもっと聞きたいと思うな……師匠、どうも、葬儀ではお世話になりまして。楽屋に差し入れましたのは、詰まらん物で……へい……どうか皆さんで……」
「ネットを私的に使わないで下さい」
「仲入り後は三遊亭春馬。珍しい『阿弥陀池』じゃ。これは上方落語で、東京では『新聞記事』という改作が演じられている。元のまま東京で聞くのは初めてじゃな。ネタは新鮮だが、まだこなれていないのかな、何か物足りなかったのは何じゃろう」
「何かが何だろうって、よく分かりませんね」
北見マキマジックをはさんで、遊之介の2席目。『三方一両損』をたっぷり。やはり奉行の重さはないが、二人の江戸っ子の性格の違いがよく出ていたし、二人の大家の違いも少し違うのじゃ。やはり人物をきちんと描くと面白いなあ」
「まあ、不満な部分も少しずつありますが」
「全体には満足の一日だったね」

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