月26日 六ツ川寄席

「横浜を取材して、弘明寺までやって来た」
「落語会ですね」
「第110回六ツ川寄席じゃ」
「写真のおじさんは何ですか」
「何ですかは失礼じゃろう。トリの三遊亭左圓馬師匠じゃ」
「見事な赤ですね」
「この後、このまま円右師匠の通夜へお出でになった」
「嘘だよ」
「そもそも横浜は、爺さんの手記の取材で計画はしておった。しかし、もう一つきっかけがないと、実行が伴わない」
「いつもそうですもんね」
「それで、この寄席へ行くのを目的に加えて、横浜へ行ったという訳じゃ」
「応援している桂夏丸君ですね」
「写真の右が夏丸君、左は瀧川鯉太君じゃ」
「黄色と青ですね」
「着せず、いや、期せずして信号の三色となった訳じゃ。高座の夏丸君は春らしい色柄の着物……誰かから頂いたものかな、ちょっと大きいサイズだったように見えた」
「着物より、落語はどうだったんです」
夏丸君は『扉の声』、古城一兵の作品で、米丸師匠が演じたのを昔聞いたな。人物描写、動き、声のメリハリ、上々の出来だった。
 鯉太君は『善哉公社』、右往左往する主人公が哀れじゃな。応対する役人も個性があったぞ」
「二人とも上出来ですね」
「仲入後、怪しい外人のグレック・ロービックさん。アコーディオン演奏で3曲を披露した」
「どんな曲をやったんです」
「1曲目は『アルプス一万尺』の替え歌、2曲目は『アルプス一万尺』の替え歌、最後に『アルプス一万尺』の替え歌じゃ」
「全部同じじゃない」
「最後に
左圓馬師匠の『長屋の花見』。見事なものじゃ。人物は個性的で、おかしかったぞ。ただ笑う噺ではなく、長屋の人々の哀愁を感じさせたな。『長屋中歯を食いしばる花見かな』が落ちになるのはちょっと弱いのではと思っていたが、今日の高座に納得じゃ」
「写真によれば、それから飲み会だったんですね」
「ロービックさんに、外人さんにふさわしいギャグを少し伝授した。これからネタにするそうじゃ」
「はいはい」
「ここへ他の落語会を準備されている方が合流、『長屋の花見
を実際にやったという……」
「へえ」
「一生懸命番茶を薄めてお酒の色にし、大根と沢庵を綺麗に切ってかまぼこと卵焼きに見えるように作った。ウキウキして出掛けたが、花見の席はただただしらけるだけ……」
「そうでしょうね」
「旅行などでも準備や計画が楽しいので、本番は付け足しのようなものじゃ。特にこの
長屋の花見は、ガブガブのボリボリでは情けないばかり」
「分かります」
「テレビアニメ『落語天女おゆい』の最終回で、同じネタが出てきたな」
「マニアックになってきますね」
「まあ、その方々はそういういたずらを随分やったそうじゃ。友達が風邪で寝込んでいる時に誕生日だというので、みんなで葬式の格好をし、ケーキも蓮の花のデザインをわざわざ作ってもらって出掛けたのじゃ」
「まるで上方落語の『けんげしゃ茶屋』ですね」
「向こうのお母さんが出てびっくり……『少々お待ち下さい』って奥に入っちゃった。どうしたんだろうと思うと、喪服に着替えて現れた」
「すごいお母さん」
「まあ、そんなことでその場で亡き梅橋師匠が会長、
左圓馬師匠とこの2人で『いたかい』が結成された」
「いたかい……いたずらの会ですか」
「そうじゃ。わしも岡山支部長に任命された」
「しょうがないね。大家さんも何かやったことがあるんですか」
「家内に電話して、『今日は遅くなるよ』って言って、3分後に帰宅したことがある」
「奥さんびっくりでしょ」
「男を引き込んでいたのに、帰ってきたのでびっくりしていた」
「それじゃあ『紙入れ』じゃないですか」
「その人達は逆をやろうと言っていた」
「逆って」
「『すぐ帰る』って電話をして2、3年帰らないというやつだ」
「ぜひやって欲しいですね」

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