1月6日 上野広小路亭

「さて、今日は上野広小路亭へ行った。これが最後の寄席になる」
「もう生涯行くことは無い」
「そう、生涯……生涯じゃない、この冬はじゃ」
「大家さん、向きにならないの。寄席はどうでした」
「最初の前座は神田蘭ちゃんの『伊達出世譚』。10月に一緒に食事をした仲じゃ」
「最初のって言うと、他にも前座が」
「もう一人、昔々亭喜太郎の『饅頭怖い』。8月に一緒に食事をした仲じゃ」
「……前座はみんなそういう仲ですか」
「わしと食事をしたことのない前座は出世しないというジンクスが」
「ないない」
春風亭柳之助の『時蕎麦』。テンポの良さが上出来じゃな」
「プログラムではその前に春風亭昇輔がいますね」
「大雪で遅れた」
「本当ですか」
「嘘じゃ。人身事故らしい。駆けつけて『桃太郎』を演じたが、時間がなく、途中の『芋太郎』で落ちにしていた」
宮田陽・昇漫才
「都道府県の言い立てで自分の型を作って来たが、今日は中国の省などを全て並べるネタ。余計な突込みをする客がいたので今一かな」
「続いて春風亭伯枝
「『禁酒番屋』だった。番人が酔っていく変化も、酒屋の若者もよかった。酒を飲む仕種に『おいしそう』って声も上がっていたぞ」
桂小南治
「『河豚鍋』じゃ。これも食べる仕種が良かったな」
春風亭美由紀三味線漫談
「正月の特別化粧、今年は結婚できるかな」
「寄席に出ていると婚期が遅れますからね」
「周りにいるのは落語家、平均年齢が高すぎるからな……昨年5月の写真とシュークリームを持っていった。また太ったらますます婚期が遅れるかな」
「読んだら起こられますよ」
「正月にふさわしい唄をいくつか、それから踊りだったが、小道具を忘れたというので『奴さん』じゃった」
「仲入り前は三遊亭圓遊
「ちょっと舌がもつれているのが心配だな。出し物は『一目上がり』。後半になるほどテンポがどんどん良くなっていった」
「仲入り後は神田紫
「『山内一豊』だったが人物の言い立てが良かったな。後で客の話を聞くと、ここから良くなったという声があったが、この人達は伯枝師匠からの落語の時は寝ていたんだろうなあ……確かにうまいのだが、舌足らずが物足りない。やっぱり男の講談を聞きたいと思うな。こちらも後に踊りのサービス。お正月じゃなあ」
「続いて東京太・ゆめ子漫才
「シュークリームいただきましたと私に挨拶。美由紀ちゃんに持って行った物をもらったらしい。漫才はなかなか良かったが、やはり客席から小父さんが余計な口をはさむ。お前、そんなにしゃべりたかったら芸人になれよ」
「大家さん、落ち着いて、落ち着いて」
「2人がうまく受け止めたから良かったじゃ」
「続いて三遊亭左遊
「珍しい『猿後家』だった。上方落語を本で読んだことがあるが、生では初めてじゃ。しかも、東京見物を話す。これはいい資料になった」
「次は三遊亭金遊
「『小言念仏』だった。この単純なリズムは、疲れている体には眠気を誘われて辛かったぞ」
松旭亭小天華マジック
「いつものネタじゃが、お正月らしく着物で演じたのでなかなか良かったぞ」
「そしてトリの春風亭小柳枝
「『妾馬』じゃ。江戸の言葉の小気味よさが持ち味じゃから、八五郎がすごくいい。これを心配する大家。そして、得意の田舎者で門番や家老を描いた。そしてなぜかちっとも田舎者でない殿様。それぞれの個性が出ていて良かった。しんみりする部分をもう少し長くやってほしいが、これでも30分以上たっぷりじゃったからな」
「まあ、全体には」
「上出来じゃな。落語家さんのサイン本があると聞いていたのじゃが、事務の人が誰もいないのでいただきそこねた。次に行くのはうまく行っても4月じゃから、どうなるやら」
「まあ、満足な席で」
「そういうこと」

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