夏丸・小たま勉強会

「さて、今日は夏丸君と小たま君の勉強会じゃ」
「ええ……これは仕事で行けなかったはずが……」
「実は父が危篤で上京、そのまま亡くなったが……その関係で上京した折に、たまたま勉強会があったので出掛けることが出来たのじゃ」
「ううん……よく分からないけれど……まあ、いいでしょう。写真は前の勉強会ですね」
「そうじゃ。右が夏丸君、中が小たま君、左は今回参加していない仙花ちゃんじゃ」
「で、今回の会はいかがでした」
「勉強会史上第2位という、16人ものお客さんが入った会じゃった」
「出し物は」
「わしは遅刻したので、すでに小たま君の『堀の内』が始まっておった」
「あわて者の噺ですね」
文治師匠は『あわて者』というタイトルで演じておったな」
小たま君はいかがでした」
「匂いで自分の住んでいる場所を認識するなど、主人公のキャラクターがもう少しで完成するという印象を得た。しかし、落ちで言い損なった。『こんなもんです』と言って下りたが、勉強会なのじゃから、落ちの前からやり直してもいいぞ。こんな物ではないはずだと、みんなは応援しているのじゃ。自分で見切ってはならん」
「興奮しないで……」
「自ら限る者になってはならんぞ」
「次は」
夏丸君の『都々逸親子』。これは円右師匠の作品らしい……わしは梅橋の録音しか聞いた事がなかったが、最近は寿輔師匠……夏丸君はこの師匠に教わったかな……権太楼師匠も演じておる。落ちもあるのじゃが、落ちまで行かないで終わるのは、まだ前座の身として仕方あるまい」
「それで、夏丸君は」
「よく高座に掛けているので手慣れておるな。新しい都々逸が入っていたのは収穫じゃ」
「次はゲストの神田蘭さん」
「ちらしも彼女の写真を使っていたな……美女を使って客を集めようという、姑息な手段じゃ」
「はいはい」
「出し物は『切られ与三郎』、前に一度聞いているはずじゃが……チェックしないと分からない」
「さて、小たま君の2席目ですが」
「『小言念仏』じゃな。リズムが一定して、そこにメリハリを作るのじゃが、どうもリズムが乱れた。単純な繰り返しの見事な作品なので、仕上げてもらいたいものじゃ」
「さて、トリは夏丸君」
「『ヒニクリスト』じゃな。これも円右師匠の作品らしい……最初の小たま君の『堀の内』との共通点は、落ちの甘さじゃな。複雑にからんだ説明によって落ちになるので、説明に手こずってテンポが乱れたように感じる。見事に締めるというのはなかなか難しい物だということが今夜の会ではよく分かった」
「問題山積ですかねえ」
「いや、若いのじゃから当然じゃろう。わしは1月でこんなに成長するのかと驚いた部分が沢山あった。たとえば、人物描写……典型的な人物は描写を考えなくてもいい……それが、たとえば夏丸君の『都々逸親子』でも変化が出ている。古典を演じたことが、芸に広がりを生み出していると感じるな」
「だんだん上手になっているということですか」
「それがはっきり見えるのは、まだまだ未熟ということじゃ。しかし、まだ落語家になって数年という若者じゃないか。こうした努力を繰り返して上手になるのじゃ」

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