10月16日 映画「四月の雪」
「さて、親父2人が入院して……」
「あれ、奥さんのお父さんは亡くなっていたんじゃ」
「わしの父親と、円楽師匠じゃ。見舞いに行って、今朝帰って来た」
「ご苦労様です」
「それで、向こうで、岡山で映画を見ませんかってんで連絡をいただいた」
「いいですねえ」
「しかし、わしは先月末に上京してお金を使い果たしているから、電車賃もない……そう言ったら、津山に映画館があるというのじゃ」
「知らなかったんですか……我が町津山なんてシリーズを作っていながら……」
「面目ない。それで、そこに招待するからと言われたのじゃ」
「何の映画です」
「『四月の雪』じゃ。わしペは好かんと言って断ったのじゃが、向こうが言うには、共演がエッちゃん(正しくはイェッっちゃんと発音)ですよって……じゃあ行かなければならん。義理と人情の世の中じゃ」
「いかがでした」
「ペの下心見え見えの行動に振り回されるエッちゃんが可哀想じゃった。同じ苦しみを持った仲間として、酔った勢いで部屋に押し掛け、相手を酔わせて心の弱みを出させ、その言葉からついに関係を持ってしまう」
「……粗筋を少し作り替えていませんか」
「男の助平心に振り回されたエッちゃんが、遂に犯される。男は勝手なものじゃが、女は哀れじゃ。初めて夫以外の男に抱かれるという決意は、処女喪失以上に痛々しいものじゃった」
「……随分勝手なストーリー展開のような気が……」
「ペの妻が回復するが、妻は男の死を聴いて泣いた。おそらくこの後もペの妻として負い目を持って彼につくすじゃろう。ペの方は卑怯にもエッちゃんとの関係を隠し続けるのじゃろう。哀れなのはエッちゃんじゃな……夫には死なれ、ペには捨てられてしまう……可哀想じゃ」
「ううん……何かが違うような……」
「まあ、最初からこのペは、見栄と外聞とを気にしておった。この結末は最初から見えていたな。妻は不貞を理由に離婚に応じるじゃろうが、外聞を気にしているペがエッちゃんと再婚することは不可能じゃ。ペの妻が回復し、エッちゃんの夫が死んだので、自然にこういう結末になった」
「そうでなかったら結末は変化する」
「両方死んでいたら、慰め合う二人が自然に結ばれるということで周りも納得しよう。両方助かったら、双方離婚するのか……それでも主人公の二人が結ばれるかどうかは疑問じゃ」
「女の方の夫だけが助かったら……」
「どうなるんじゃろうな……そうした色々な解釈はドラマになるかも知れない」
「まあ、色々考えさせられただけでも良かった」
「そういう評価になるかのう……月末には同じエッちゃんが違う男と共演する『私の頭の中の消しゴム』……これはアルツハイマーを扱ったもので、わしも関わりがある。また初日に招待してもらっている」
「じゃあ、またご報告を願いますよ」
『私の頭の中の消しゴム』に関するご報告:この初日公開の当日、父が亡くなったため、行ってやることが出来ませんでした。あしからず。