9月28日 途方名人会

「今お帰りですか」
「夜行バスで新宿から津山まで8時間20分、何度も利用しているが、珍しくよく眠れた」
「それはよござんした。昨夜は若手の勉強会だったとか」
小たま夏丸仙花の3人による勉強会『途方名人会』じゃ」
「妙なタイトルですねえ」
「知らんか、昔『東宝名人会』というのがあった」
「それで、昨夜はいかがでした」
「もちろん前座の勉強会だから、物足りない部分も多い。小たま君は『二人旅』と『粗忽長屋』。『二人旅』は人物の差がないが、『粗忽長屋』は人物を描き分けていた」
「あの噺は気の短いあわて者と、落ち着き払ったあわて者が出るから」
「そうじゃ。そのまま演じても違いは出る。しかしそれに差が出るのじゃ。気の短い男がもう一人に『自分が死んだ』ということを納得させる、その説得力がないと、ただの作り話じゃ」
「でも作り話でしょう」
「作り話だと分かっていても、そうなるかも知れないという説得力がないと、聞いていて面白くないのじゃ。そういう評価をすると、小たま君の一席は上出来じゃないかな」
夏丸君は」
「『芋俵』と『六尺棒』じゃ」
「新作派じゃなかったですか」
「そうじゃな。2月12日の『早春寄席』で、『湯屋番』を演ったのを聞いたが、他は新作ばかりじゃ」
「出来はどうでした」
「実はまだまだだと思っていた。人物を描き分けることがない、メリハリがない、抑揚が不足……」
「全部悪いじゃないですか」
「いやいや、決して悪くはない。桃太郎師匠なんか、男も女も同じ調子じゃないか。大物になればそれでもいい。若い頃は大いに声を出してほしい。小たま君も、声の強弱がまだわざとらしい。これが無理に大声を出すのでなく、自然にメリハリ、抑揚になっていくはずじゃ」
「難しい話ですねえ」
「いやいや、音楽でいうと、ボリュームを下げてもフォルテはフォルテ、めいっぱい上げてもピアノはピアノじゃ」
「よく分からない例えですね。それで、夏丸君の高座は」
「そうじゃった。話をそらさんでくれ。古典をやることで先に言った課題が見えて来たような気がする。メリハリと抑揚は、明らかに今までとは違うモノを感じた。『六尺棒』では親父と息子の台詞、言葉遣いで描き分けることが出来るのじゃが、それが曖昧になる部分もあった」
「じゃあ、物足りない」
「いやいや、若い人の勉強会なのじゃから、これからそういう課題をこなして行けばいいのじゃ。しかし、人物を描くというのは、わしは大きな課題だと思っているが、長年の積み重ねからにじみ出て来る部分が大きいので、こうすれば良くなるというものではない。また、同じ噺でも、演じ手によって違うのはその演じる人の蓄積が違うからじゃ。その違いが面白いのじゃよ」
「そんなものですかねえ。それからもう一人の仙花ちゃんは」
「大道芸で、後でアンコールに傘の芸を演ってもらったが、今回はバチさばきをメインに置いておった。どちらも練習中ということで、大分緊張もしていたが、こういう勉強会じゃからこれも良しとしよう」
「練習では見せる芸ではない」
「そうじゃな。普通の寄席では許されない。しかし、落語だってそうじゃよ。こういう席で課題が出てくる、それをどんどん磨いて良くなっていくのじゃ。それを見るのが楽しみじゃから若手の勉強会に行くのじゃ。客席はガラガラじゃが、その成長を見せれば、客を呼べるものになる」
「右は出演者3人の寄せ書きですね」

「次回は10月27日(木)じゃが、わしはこちら(岡山)で仕事なので行けない。皆さん、代わりに応援に行っておくれ。次の機会があれば必ず行くぞ」

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