9月27日 お江戸日本橋亭

「久し振りにお江戸日本橋亭……実は3、4回通ったのに、定席は今年始めてじゃった」
「前座は」
橘ノ美香、落語芸術協会で一番下の新人じゃ。演目は『子ほめ』。新人にしてはいいんじゃないか」
「そうすると、贔屓にしている夏丸君もいよいよ二つ目に……」
「いや、まだまだじゃよ。明日は夏丸君も参加する『途方名人会』に行く」
「さりげないCMが入って、次の演者は」
三笑亭可女次の『強情灸』……すごい成長じゃな。驚いた。
私のメモでは一昨年の3月8日『前座としては悪くない』。その後年に3、4回聞いているはずだが、印象は同じで『悪くはない』レベルじゃった。今日のは本当に良かった。動きが大きくなって、本当に面白い。初めて認識したぞ」
「続いて春風亭笑松
「『鰻屋』だった。体が大きいが動きの細かさ、鰻をつかむ仕草など丁寧で良かったな」
山遊亭金太郎
「これは珍しい『貝野村』、上方噺で東京では『海野村』とも書いたというメモがある。しかし、東京落語で聞くのは初めてじゃ。上方では丹波貝野村じゃが、こちらでは秩父の方らしい。上方落語は何度も聞いたが、
『床についていたおもよが、若旦那の病と聞くや、疲れて動けない使いの者をおぶって大阪まで走る』
 とか、
『病気が直って若旦那は食事を五十六杯食べた。おもよは女なので遠慮しながら慎ましく、小さな茶碗で八十六杯……』
 とかいうフレーズが、そこまでして笑わせる必要があるのかという印象だった。やっぱり東京落語ではそうした笑いは全てカット。「長頭回し」からのおかしみは許せるのじゃが、先のようなくすぐりはいらん」
「どうしていらないんでしょう」
「さあ」
「自分でも基準が分からないんですね」
「当たり。さて、仲入前は三笑亭夢太朗の『蒟蒻問答(こんにゃくもんどう)』じゃった。これも坊主になる馴れ初めから落ちまでたっぷり。堪能した」
「仲入りですね」
「平日にもかかわらず満員じゃったな。家内は浅草へ行ったが、こちらの演芸場も超満員だったそうじゃ。団体が入ったからということじゃが、もしかするとつくばエクスプレス効果かも知れんな」
「さて、仲入り後の食いつきは」
桂小文治(写真右上)の『虱茶屋(しらみぢゃや)』。先代の助六が得意にしていた。もちろん録音じゃ。聞いているだけでは不潔で嫌らしいイメージしかなかったが、見て面白い落語であることが分かるな。幇間が話しているうちに虱が活動を始める。踊りになってそれが更に……いやあ、面白い」
「続いて林家今丸紙切り
「素晴らしい作品をいただいた」
「画像は左、これは桃太郎ですね」
「そうじゃ。そしてトリは桂小南治……紙切りつながりじゃな。正楽の息子、二楽の兄じゃよ。『妾馬』じゃ。大家とのやりとり、殿様の前へ出てからのとんちんかん、大いに笑わせ、妹の姿を見ると「よろしくお願いします」とみんなに、何度も何度も頭を下げる。これもいい演出じゃな。先日菊之丞を見たばかりだから、比べることが出来て面白かった」
「そういう訳で満足ですね」
「うん……正直言って、落語芸術協会でこれだけ満足したのは久し振りじゃな。まだまだ捨てたものじゃない。わしは応援を続けるぞ」

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