8月1日 上野広小路亭

「ううううう……」
「何をうなっているんです」
「うなっているのではない。感激に泣いているところじゃ」
「何に感激したんです」
「寄席に行ったのじゃ。上野広小路亭……去年までは行きつけの席だったのに、今年は2月4日以来、2度目の来場じゃ」
「誰が出ていました」
「前座は、桂夏丸君じゃ」
「ああ、若い元気な子ですね」
「ぜひ育ってほしい。やっと高座が落ち着いて見えるようになったが、まだまだこれからという若手じゃ」
「今日の出し物は」
「『課長の犬』じゃ。亡くなった柳昇師匠が演じておった」
「いかがでした」
「上々じゃな。更に人物描写が出てくるようになるじゃろう」
「続いて」
「今日は二人前座で、昔々亭喜太郎の『権助魚』。主人とかみさんと権助だけじゃから、演じ分けは難しくない噺じゃろうが、やはりもっと人物を描いてくれると面白くなるじゃろう」
「続いて二つ目」
春風亭べん強君が二つ目になって、初めて見る高座じゃ」
「じゃあ、一つ出世した」
「そうじゃ。何年前に初めて見たかな……確か2002年の2月27日、前座で出ておった。『ろくろ首』を演ったが、与太郎が大きい声でがなるだけの人物で、ひどいもんじゃった。その後何回か見ておるが、回を重ねるに従って、だんだんうまくなるのが分かる。若手の面白さじゃな」
「今回はいかがでした」
「『初天神』をちゃんと落ちまでやった。20分をしっかり演じるのは大変じゃな。まだこれからじゃから、色々経験をしてほしいな」
「続いて桂うらら……女の子ですか」
「いや、男じゃ。何冊ものスケッチブックを用意し、お店に書いてある看板などが怪しいとか、運転免許の試験問題のおかしなのを並べていた。客席もようやく盛り上がってきたな」
「はい、続いてコントD51、こちらの席ではお馴染みの」
お婆さんコントじゃ。例によって二人の掛け合いがおかしいが、客席が勝手な茶々を入れて、あっち行ったりこっち行ったりの大爆笑コントになった」
「大家さんも何かやりました」
「赤城の子守歌を歌わされた。最初は真面目にやって、後半滅茶苦茶にしたら、あせっておった」
「しょうがないね。続いて春風亭柳好
「『青菜』をじっくり演った。季節感といい、幸せな気分にしてくれる噺じゃな。こんなにいいとは思っていなかったのじゃが、見直させてくれた」
「それから神田松鯉の講談」
「落語にもある『佐野山』、雷電為右衛門の情け相撲じゃ。良い声をしておる。浪曲ならいいなと思いながら聞き入ってしまうのじゃ」
晴乃ピーチク
「これももうお馴染みになった似顔絵漫談……お馴染みといいながら、生で見たのは2回目なのじゃが」
「はいはい、それから仲入り前が桂小南治
「テンポのいい『ちりとてちん』、後半の暗い男が出てきて、この男が色々しゃべり出して、テンションを下げずに一気に落ちまで行った」
「ここでお仲入り」
夏丸君にお土産を持っていった。それからトリの桃太郎師匠に」
「吉備団子を」
「当然じゃろう。それしか思いつかなかったのじゃから」
「さて、後半の食いつきは春風亭昇乃進
「昔、右女助が演じていた『ユーレイ自動車』かと思ったら、違う噺じゃった。とりあえず『幽霊タクシー』としておこう」
「安易なタイトルですが」
「噺は昇乃進らしい作品じゃった。中のギャグがマニアックで……いつもの作品は落ちが物足りなかったが、今回はまあまあ……でも、まだ洗練する余地がありそうじゃな」
「続いて東京丸京平漫才
「ひどいもんじゃった。例によって京丸が酔っ払っているんじゃないかって雰囲気で……しかし、それが面白いのがおかしいコンビじゃな。しかし、客の中にずっとプログラムを見ている人がいて……マナーを知らんのかって言いたかったが……それを毒舌ギャグにしていたので、まあ溜飲が下りた」
「演じる方も大変ですね」
「漫才じゃから、一方が客の悪口を言っても、もう一人がそれを責める。こういう場合は強いな」
「それから春風亭柳桜
「生で見るのは初めてじゃ。『鰻屋(素人鰻)』を演じたが、鰻をつかむ手つきはすごいな……考えてみたら、前の文楽が演出して十八番にして、録音は山のように聞いたが、生で見たのは初めてだったのじゃ……いや、恥ずかしい」
「次は三遊亭小園右
「『千早振る』を演じたが、なかなかドラマチックじゃった」
「ドラマチックというのは」
「人物の描き方じゃ。要するに知ったかぶりが話をするのじゃが、その中で人物が描かれるのじゃよ」
「なるほど。それから鏡味健二郎
曲芸で、お馴染みじゃな。ちょっとミスもあったが、いつものように客席をいい雰囲気にしてくれる」
「そして、トリが昔々亭桃太郎
「演目は……『裕次郎物語』だった……のかな……完全な桃太郎ワールドで、不思議な空間を作り上げた。
 まずお土産を持っていったが、下にご祝儀が入っていなかった……いきなり叱られてしまった。それからCDのコマーシャル。逃げては行けないからってんで、その場でCDを渡された」
「とんでもない高座ですね」
「これぞ桃太郎の世界じゃよ。終わって、そのまま持ち逃げ、帰ってしまおうとしたら、しっかり喜太郎さんにつかまってしまった」
「それで楽屋へ」
「狭い所じゃな。四畳半……くらい、横に3人並ぶともう一杯という所じゃった」
「色々話が出来ましたか」
「うれしかった。自分で寄席を作った素人の人が姫路にいるとか……これは津山寄席を作らなければならなくなったな」
「大変ですね」
「また4日に行くということで、再会を約束して別れた」
「そういう訳でまた4日に」

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