2月23日・お江戸日本橋亭

 ええ、本日はお江戸日本橋亭へ行って参りましたが……
「留さん、どうだったい、今日の寄席は」
「前座は夏丸君の『課長の犬』でしたね」
「これは亡くなった柳昇師匠が得意としていたネタだ。飄々とした風貌にぴったりだったが、夏丸君は若々しさがあって、また新しい世界を拓きそうじゃな」
「贔屓にしてやりましょう」
「もう一人前座で春夢君の『道具屋』、これも悪くはなかった」
「与太郎って、馬鹿じゃあないんですねえ」
「そうだな、一度の説明で品物は覚えているし、洒落は言うし……ただの馬鹿ではない。そこで違和感が感じられたら噺にのめり込めない。易しい噺のようで実は難しいのじゃ」
「でも春夢君は、客を色々描き分けていましたね」
「言葉に訛りがあったりしただけで、人物を描き分けるという域までは行っておらんな。じゃが、まあ前座としては合格点じゃろう」
「その後が今日のお目当ての鹿の子ちゃんなんですが」
「手土産を持って行ったそうじゃないか」
「ええ、モノにしようと思いまして」
「それは贔屓にしようというんだろう」
「そうとも言う」
「今日は二つ目によるネタ出しの会でして、鹿の子ちゃんは『秋色桜』だったな……先週の独演会で取り上げた噺だな。これなら、さっき言った人物の描き分けが分かるじゃろう。主人公の娘、その父親、世話を焼くおばさん、上野の宮、その家来、駕籠屋……な、言葉のちょっとした違いで見事に人物を描き分ける」
「ええ、鹿の子ちゃんて、なかなかいいですねえ」
「わしは1999年から目をつけておるぞ」
「年を取っても浮気はやまぬってね」
「わしは芸の話をしているんだ」
「あ、済みません。続いて仲入前に恋生の『幾代餅』でしたが」
「これは志ん生がよく演っていて、息子の馬生は人情噺としてしみじみと聞かせるやり方、志ん朝の方は明るく落ちがある演じ方を受け継いでおった」
「今夜の恋生は更に笑いを加えて、おかしかったです」
「しかし、あれでは主人公が与太郎じゃないか。病気の場面でも、出掛ける時も、戻ってからも……そういう雰囲気だけが鼻についた。やはり若い男の喜怒哀楽を描かなければならない。これだけ演れるんだったら無理に笑わせる必要はないと思うな」
「そうですか。仲入後は笑好の新作『酒の素』(仮題)。水に入れれば酒になるという薬を水源に入れてみんなが酔っ払うという噺ですが」
「メリハリがなかったな。場面転換もその中の描写も同じような調子で続く。まだこなれていないという印象を受けたが、それぞれの場面で山場が作れれば面白くなるじゃろう」
「次にローカル岡さん……いつも同じようなネタなのに、何でこんなにおかしいんですかねえ。腹ァ抱えて笑っちゃいました」
「味だな。今日は若手の会だっただけに、ひときわ光を放っていたように思えるな」
「それでトリが可龍の『悋気の独楽』でした。なかなかの出来だったんじゃありませんか」
「そうだな。演り方は色々あるが、今年真打ちになる遊史郎君と同じ演出だったな。遊史郎は自分なりの味を出していた。妾の色気と小僧の無邪気さがいい。今日の可龍もトリとしても十分の出来だと思うが、そうした自分の個性を出せるようになると本物になるな」
「なるほど……全体としてはいかがでした」
「うん、満足出来る高座だったな。普通の寄席なら☆3つ半というところだが、二つ目が集まった会なのだからこれで上出来じゃないかな」
「はい。ぜひまた行きましょうね」

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