かわらけ町(かわらけまち)

【粗筋】
 麻布のかわらけ町の質屋・萬屋幸右衛門(よろづやこうえもん)宅で、女中が暇を取って故郷へ帰った夜に火事を起こした。近所では、火事の後女中の姿が見えなくなったということから、質屋が女中を焼き殺したという噂が立ち、主人がこれを気にして表に貼り紙を出した。
「質物(しちもの=質入れされた品)一切何事も御座無く候(ござなくそうろう=ございません)
 並びに家内一同怪我無く候   萬幸(主人の名「萬屋幸右衛」の略)」
  この前を通ったのが太田蜀山人。貼り紙の脇にすらすらと書いたのが、
    萬幸に怪我(毛が)ないとての断りはかわらけ町に要らぬ立札

【成立】
 三遊亭圓生(6)が演じていたが本人のバレネタのメモにもない。この程度ならと放送で演じられたものとのこと。張り紙は「しちもの(質入れされた品)いっさいなにごともございません(無事です)。また、家族使用人なども一同怪我がございません」という意味。

【一言】
 亡くなった古今亭志ん生(5)と一緒に満州へ行った時の話に、新京の放送局に森繁久弥さんがアナウンサーでいて、この三人がお座敷でバレ噺の共演をしたというのがあります。昔の噺家は……今の噺家もそうでしょうが……お座敷用の“バレネタ”というものを必ず持っていたそうですが、圓生(6)師匠もかなりの“バレネタ”を持っていたようでありまして、師のメモには『鈴振り』『亀太夫』『目薬』『いいえ』『三軒長屋』『品川の豆』など、割によく知られたもののほか、『半貝五十』『ふいご祭』『無礼者』『もっと下ヨ』『新宿屁』『二階からへのこ(『宙乗り』ないしは『松茸間男』と思われる)』など大体内容の想像がつくもの、『かつぶし屋』『峠村』『弁当使』『雀の巣』『一ト突一ッ』などちょっと中味の判らないものをひっくるめて四十ほどが記されています。(?)

【蘊蓄】
 落ちの歌は「怪我無い」を「毛が無い」に掛けたもの。女性が年頃になっても陰部に毛がないことを「かわらけ」という。
    かわらけもままあるものと湯番いひ(末摘花・一)
 かわらけは素焼きの土器。初春の祝いやお盆の供養の膳に用いた。値段は1つ16文、「愛宕山」でお馴染みのかわらけ投げは1つ4文だそうだ。

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