鰻のかざ(うなぎのかざ)

【粗筋】
 けちな奴が、隣の鰻屋の匂いをおかずにして飯を食っていると、月末になって勘定書が届いた。「かぎ代 八百文」とある。けちな男、「よし、払ってやる」と銭をジャラジャラと放り出した。鰻屋が拾おうとすると、
「おう、取っちゃァいけねえ。音だけ聞いて帰れ」

【成立】
 1773年(安永2)『軽口大黒柱』巻三の「独弁当(ひとりべんとう)」がよく似ているが、同じ年の『坐笑産』の「蒲焼」や、1780年(安永9)『大きに御世話』の「蒲焼」の方がより落語に近い。吝嗇(りんしょく=けち)噺の枕としてよく取り上げられているが、林家正楽の創作落語「さんま火事」もこの小噺からの発想であろうか。

【蘊蓄】
 「かざ」は「香気」と書いて、いい匂い、香りのこと。
 『ナスレッディン・ホジャ物語』では肉を煮る湯気にパンをあてて食べた、夢で金を取られた、薪を割るのに声を掛けたという理由で代金を請求され、ホジャは銭の音を聞かせる。
 『パンタグリュエル物語』巻三之書(ラブレー)第37章では、焼肉屋の前で匂いをかぎながらパンを食べる人足に代金を請求する。通り掛かった者が銭の音で支払いが済んだと宣言する。

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