パガニーニによる他作曲者の作品一覧

※ パガニーニからの影響 ※

ショパンとリスト、シューマン

 「独奏曲といてのショパンの変奏曲には、特別に革新的な手法は見られないが、主題が提示される前に序奏をおいた点や、華麗なフィナーレを配するなど、ショパンの演奏家としての野心が表れている(下田幸二)」

 読んでお分かりのことと思うが、要するにパガニーニのスタイルをそのまま引用している訳である。例えば「シンデレラの主題による変奏曲」はパガニーニが作品13の2に用いたのと同じメロディ、同じ形式による変奏である。他の変奏曲についても、下田氏の解説にある通り、全てパガニーニのスタイルを用いていることになる。また、「練習曲」を作る気になったのは、パガニーニの「奇想曲」を聞いて影響を受けたからだという。
 一方リストはピアノ演奏のパガニーニを目指して技巧的な作品を発表した。代表作「超絶技巧練習曲」は、ショパンと同様「奇想曲」からの発想である。この作品も24曲にする計画があったが、12曲を出版して中絶した。
 シューマンはパガニーニの演奏会に皆勤の記録を持っており、パガニーニにちなんだ作品もいくつかある。また、奇想曲第24番にピアノ伴奏をつけており、これは、ヴァイオリンのソロは原曲通りに演奏するもの。伴奏以上に間奏が付いているのが面白い。フルートなどで演奏する場合はこの伴奏が用いられていることが多い。

その他

 19世紀後半から今世紀初頭にかけては、「第2のパガニーニ」、「パガニーニの再来」というヴァイオリニストが多数登場してくる。しかし、サラサーテにしても、クライスラーにしても小品ばかりであり、ヴァイオリニストでもある作曲家をどれだけ並べても作品内容においてパガニーニには及ばない。その他いくらでも影響を受けた作曲家を挙げることが出来るだろうが、当然その技巧はパガニーニから受け継いだものであり、パガニーニには及ばなかったという判断から、 ここでは割愛する。

 

※ パガニーニのイメージよる作品 ※

シューマン:「謝肉祭」

 1835年の作曲。「ドイツ風ワルツ」の後に「パガニーニ」という題名が見える。
 曲はワルツをパガニーニの超絶技巧風に変奏したもの。この後「ワルツ」が戻っ て、全体として三部形式になっている。三曲それぞれが40〜50秒程度の作品。

ショパン:「パガニーニの思い出」

 1829年に作曲し、81年に出版されたもの。作曲した年のパガニーニのワルシャワでの演奏会に皆勤したが、その印象をそのままピアノに移した即興曲。「ベニスの謝肉祭」を主題に、パガニーニの雰囲気をそのままピアノで再現しただけのもの。パガニーニにとらわれすぎてショパンらしさは不足しているように思われる。出版されるまで年月を要したのも、作品としての評価が低いからであろう。

レハール:歌劇「パガニーニ」

 パガニーニのどの事件をオペラにしたのかよく分からない。導入にはいかにもパガニーニを思わせるヴァイオリンソロが付き、「美しいイタリア」というアリアが続く。日本では発売されなかったレハールの小品集を集めたレコードにこの部分だけが入っている。日本では「私ほど愛する者は他にない」「愛は地上の天国」といった歌がレコードで出ていた。CDでも何曲かが出ているようだが、まだ聞いていない。

 

※ パガニーニの主題による作品 ※

シマノフスキ:奇想曲
 奇想曲にピアノ伴奏をつけたもの。
ヴァイオリンはほとんど原曲通りだが、多少は改定もある。ピアノ部は不協和音を駆使した現代的なもので、不思議な雰囲気を作り出している。

ポンセ:パガニーニのソナタ
 ギターのソロの曲。パガニーニ作品をギターのソロに編曲したのか、あるいは主題を使った新たな編曲なのか、レコードなど出た記録もないので不明。もちろん原曲として選ばれた作品も未詳。

エルマン:奇想曲
 1974年に出版されたもの。奇想曲全24曲を無伴奏フルート用に編曲。フルートの技巧を駆使するため、元の曲と聞き比べると、元の方がすっきりしている、原曲のイメージを壊す改悪と言える部分が相当ある。特に24番の有名な旋律の音程を変えているのは疑問の残るところ。

ブリカルディ:パガニーニの主題によるアンダンティーノと変奏
 パガニーニはイタリア民謡「私のママ」の主題による変奏曲「ヴェニスの謝肉祭」を書いたが、同じ題名ですぐ頭に浮かぶのはフルートの名曲というのが常識であろう。そのフルート版「ヴェニスの謝肉祭」を作曲したのがこのブリガルディ。明らかにフルートのパガニーニを意識し、技巧を駆使した作品に仕上げている。ここで紹介しているのは、「ソナタ」の主題をフルート用に編曲したものと思われる。

ヨハン・シュトラウス1世:パガニーニ風ワルツ
 作品11。1828年の作品。シュトラウスらしいワルツだが、旋律は「ラ・カンパネラ」。展開する中で、 様々なヴァイオリンのテクニックが顔を出すのが、いかにもパガニーニの雰囲気を伝える。パガニーニを知っていると、思わず微笑んでしまう傑作。1999年のウィーン・フィル「ニュー・イヤー・コンサート」で取り上げられている。

シューマン:パガニーニの奇想曲による練習曲
       パガニーニの奇想曲による演奏会用練習曲
それぞれ作品3、10となっており、1832年、1833年の作品。パガニーニの奇想曲による編曲だが、初期の作品でもあり、後述の作曲家達の作品に比べると見劣りがする。そのため残念ながらほとんど録音されたことがない。
 作品3は順に6・9・11・13・19・16番の、作品10は12・6・10・4・2
3番をもとにしている。

リスト パガニーニの主題による華麗な大幻想曲 イ短調

1834年の出版。リストによる「ラ・カンパネラ」の最初の作品である。長い前奏の後、ラ・カンパネラが始まるが、2度目に主題が出る部分は右手が同音連打と高音部(最大2オクターブ上)の装飾音の連続となる。この装飾音は、1度目の主題提示にも現れる。その時は左手で弾けばいいが、ここは演奏不能であり、高音部を前打音で弾くしかない。3回目も3連符の跳躍の連続であるが、イ短調にしたため、嬰トの音を弾きにくくなっている。1951年の「大演習曲」が嬰ト短調になっているのは、この当たりを弾きやすくしたものと思われる。本人が腕前を見せるために作ったものであろう。 500小節の大曲で、第2主題として、「ベニスの謝肉祭」の主題「私のママ」が登場する。これで終わりかなと思った後に、左右の手が交互に相手の上を越えて演奏するという派手な部分が始まり、ピアノ全音域を使った半音階、両手でトリルを真ん中で弾きながら上下に第2主題を弾く部分、10度の連続等々、好き勝手な技巧が次々に登場してくる、 150小節にもわたるコーダが付く。

リスト パガニーニの主題による超絶技巧練習曲

1838年の出版。51年の「大練習曲」(後述)と同じ曲目であるが、比較すると、一般向けに弾きやすく改定したのが「大練習曲」であり、この「大練習曲」は技巧的にはそれほど驚くべきものは見えないが、こちらの「超絶技巧」は、その名の通り、大変な技巧を要する作品になっている。

第1番「アルベッジョ」:冒頭は「大」と同じ。主題を上下で提示するが、これが大変難しい。「大」では低音部のみを残して、左手で演奏するようにしているが、右手を使えば大した難曲でもない。その後の部分では、「大」では左手で単純なトレモロ、右手が旋律となっている。この「超絶」では手を交差させて、左手で旋律を弾く。再現部ではパガニーニ得意の分散和音が駆使されるが、これはピアノでは弾きにくい。

第2番「オクターブ」:ほとんど「大」と同じ。演奏方法の指示に違いがあるが、「大」と同じ演奏で良いはずだ。ただ下降する音階で3度の和音の連続があり、これをテンポ通り弾くのは大変。その後も両手交互の3重和音で半音階を駆け下りる。「大」ではこの部分は右手の4度の連続で演奏しており、決して易しくはない。その後の部分、「大」では右手で和音、左手で半音階を弾かせているが、「超絶」では右手がメロディと3度の連続の半音階、左手で広い和音にトリルを付けている。その他多少の改定があるが、「大」の方が弾き易くなっていながらダイナミックさも効果的になって評価出来る。

第3番「ラ・カンパネラ」:「大」と比べて、この曲のみは構成まで全く異なる。変イ短調で始まるが、「大」の跳躍はなく、単純な旋律である。演奏効果は「大」の完勝。同じように展開して、主題がカノンで戻り、「大」と同じコーダで終止する。ああこの程度で終わりかと思ったら、何と長調に転調して全く新しい主題が登場する。これはパガニーニの協奏曲第1番のフィナーレの主題である。この主題を中心に様々な技巧を追求するが、さほどの難曲ではない。二つの主題を扱ったためまとまりに欠けている。

第4番「アルペッジョ」:「大」の解説で、「創意も工夫もない詰まらない編曲」としているのだが、この「超絶」はとんでもない難しさである。まずアルペッジョを両手で別々に、それも和音で弾く。ホ短調になると、「大」で3度の和音による3連符となっている部分が、低音部に対旋律を置き、右手は3重和音でのアルペッジョ。まあとにかく無茶苦茶な技巧が駆使される。池尾拓『クラシックB級グルメ』(洋泉社)には、

 特に第4番と第6番が非常識の極みなんですわ。通常版では急速な単音で演奏される第4番は、初版では両手とも重音! しかもだんだん分厚くなっていき、しまいには鍵盤の下から上まで腕が駆け巡って分厚い和音を叩きまくる大暴れ。(中略)通常版はあくまでも「ヴァイオリンでやってる事をピアノでもやった」レベルなんですが、初版には「ピアノが本気を出したら、おまえらどうなるか見てろよぉ」的な気合を感じます。

 主題が戻る部分が「大暴れ」の部分。ここまでピアノを叩きまくる曲はない。フィナーレでも両手で10度の連続など、テクニックを駆使して行く。なお、この曲は初版と2版で違っており、本文は2版の内容によった。この2つの違いは「かなり難しい第1版と、無責任なほど難しい第2版」なのだそうだ。

第5番「狩り」:この「超絶」を簡略化して「大」に至ったという経過が見えて来るような曲。「大」に比べて難しいことはいうまでもないが、前半の効果は今一という印象。中間部で厚みがあり、「大」で片手で演奏した部分が両手で飛び回るようになっているなど、変化はあるが、効果的には「大」に軍配を上げたい。第1主題の再現も、「大」はあっさり演奏しているが、こちらは「ラ・カンパネラ」を思わせる高音のオクターブの連続から始まり、半音階を駆使しして、スケールが大きくなっている。

第6番「主題と変奏」:形式も主題も「大」と全く同じ。しかしその技巧には雲泥の差がある。第1変奏は、「大」ではパガニーニ原曲通りの分散和音だったが、こちらでは全て3重和音。第2変奏は、「大」では両手で旋律をトスしているが、こちらでは両手で同時に旋律を弾く。両方に原曲のままの装飾音があって、かなり難しい。第4変奏は、左手が3連符となり、右手との複リズムとなる。第6変奏は左手が急速な10度の和音進行。第7変奏は低音にリズムが加わり、厚い和音になる。第8変奏はあっと驚く。右手が幅の広い分散和音、左手はとてつもない跳躍の連続。後では左右の役割が入れ代わる。そして第9変奏は、「大」では単純きわまりない分散和音だったが、こちらでは同じ分散和音を3オクターブに分け、上中下を飛び回る。という具合に無茶苦茶に難しくなっている。一般的な「大練習曲」との比較としたのであるが、ここで記載しなかった部分についても多少の違いはある。大きな差ではないので省略した。

リスト:パガニーニの主題による大練習曲
 リストのピアノでの超絶技巧を駆使した作品。パガニーニの主題による新たな 作曲というよりも、彼得意のトランスクリプション(ベートーヴェンの交響曲等 をピアノ・ソロで演奏するように編曲した作品群)である。1833年に「ラ・カンパネラ」を編曲、後に改訂して全6曲として1851年に完成させた。
 
第1番「アルベッジョ」:奇想曲の6番をメインにして、前後に5番の導入部を付けた編曲。
  第2番「オクターブ」:は17番を編曲しているが、ピアノらしい雄大な編曲になっている。
 第3曲が有名な「ラ・カンパネラ」である。原作の華やかさは隠れ、ピアニシモで演奏しながら、超絶技巧を要する。「鐘」の描写が原曲以上に効果的といわれる。第2番と共に、原作を離れてピアノの音色を効果的に駆使しており、リストの代表作と位置付けされるほどの作品である。
第4番「アルペッジョ」:は奇想曲の第1番をピアノに移しただけで、創意も工夫も感じられぬつまらない編曲。
第5曲は9番の「狩り」:ヴァイオリンで音階を上下する部分が、 ピアノの音階をフルに使った派手なものになっている。
最後の第6曲は24番の「変奏曲」:主旋律としてパガニーニの作った作品をそのまま活かし、ピアノらしい装飾や対旋律を付けている。変奏の中でも主題の旋律が聞こえる工夫がされ、変奏曲として効果的な作品に仕上がっている。

ブラームス:パガニーニ変奏曲
 もちろん奇想曲24番による変奏曲。「ヘンデルの主題」とよく比較されるが、 門馬直美は、「『ヘンデル』は音楽と効果の完全な調和だったが、新しい『パガニーニ』は、技巧と効果だけを重んじているのである。」としている。その理由について、ピアニスト・タウジヒの技巧に感激したブラームスが技巧だけでも十分効果があると考えたこと、主題にこのメロディを選んだ理由として、シューマンの例とリストへの挑戦を上げている。門馬氏の解説には書かれていないが、当然パガニーニの超絶技巧の思いがあったはずである。
 ピアノのあらゆるテクニックを使う必要があり、夫人が「魔術師の変奏曲」と名付けている。14曲ずつの前半、後半から成り、それぞれの最後がフィナーレと して少々長めになっている。出版の関係で2部に分けたもので、本人は通して演奏するものと考えていたらしい。出版社では演奏技術の高さから元々ついていた 「練習曲」を目に付かないよう小さな文字で印刷したという。テクニックに困り果て、半分でやめてもいいのかと尋ねた友人・ローゼンタールに、「前半が終わって客がもっと聞きたい様子だったら後半を演奏しろ」と答えたという逸話が残る。技術的にも内容面でも面白い曲だが、親しみ易さに欠け人気は今一のようだ。作曲は1863年で、ピアノ独奏による変奏曲の最後の作品となった。変奏曲の技術の粋を尽くしたというところであろう。

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
 これらの作品群で最も人気の高いもの。もちろん奇想曲24番が主題。1934年に作曲された、ラフマニノフの最後のピアノ曲(後には交響曲第3番と交響的舞曲が書かれた)で、「狂詩曲」と題されるだけに、華麗なピアノ技術と美しい音色を駆使した管弦楽による24の変奏から成る。単なる変奏に終わらず、原曲のリズムを離れてメヌエットやスケルツォも聞こえる。第18変奏は映画「6つの恋の物語」「ある日どこかで」のテーマとして有名。対旋律風にグレゴリオ聖歌の「怒りの日」(ベルリオーズが「幻想交響曲」に用いたので有名だが、リストなども好んで用いた旋律。ラフマニノフは最後の作品となった「交響舞曲」で再び用いている)が使われている。
 ラフマニノフ自身のピアノと、ストコフスキーの指揮によるモノラル録音の演奏が残っている。私は子供の頃に初めて聞いたのがこのモノラル版のため、色彩感が乏しく思われ傑作だと気付くまでしばらく掛かった。

ブラッハー:パガニーニの主題によるオーケストラ変奏曲
 1947年の作。奇想曲24番による16の変奏だが、旋律よりもリズムを中心に置いた編曲。主題がヴァイオリンで提示されたとたん、オーケストラによる下降音の積み重ねで異様な世界に引き込まれていく。譜面上では3拍子だが、楽器によって2拍目と3拍目にアクセントを変える、5拍子と7拍子、あるいは4拍子と5 拍子が入り交じる変拍子、主題の音型を4分・8分・16分音符で重ねる、原作通りの2拍子を強調しながら中に7連符が繰り返される、など現代的な感覚で、あらゆるリズムを駆使している。日本では一つだけレコードが発売されたが絶版になっている。

ルトワフスキー:パガニーニの主題による変奏曲
 作曲者は、学生時代にアルバイトでピアノ演奏をしていたが、1941年にこの主題による変奏曲を作曲し、友人とピアノ連弾で演奏したものがプロの演奏家に認められた。女性ピアニスト・ブルメンタールの依頼で、1977年にピアノとオーケストラのための新しい曲として作られたのがこの曲。打楽器が駆使され、和音もいかにも現代的な響きがするが、あれ……なぜか親しみ易い。実は主題から変奏まで、主旋律は原曲の奇想曲24番の音符を1ヶ所も変えていないのである。マニアックな1曲。

ブレーメ:パガニーニアーナ
 ブレーメなんて作曲家は知らない? アコーディオンの方ではかなり有名な人(らしいん)です。タイトルは「パガニーニあれこれ」という意味で、奇想曲24番の主題 をあらゆるアコーディオンのテクニックを使って変奏したもの。イタリア風、フランス風など、各国のイメージが繰り広げられる。この雰囲気もアコーディオンにぴったりで、他の楽器での演奏は考えられない名曲。

ミルシテイン:パガニーニアーナ
 1954年の作品。原作に倣った無伴奏ヴァイオリンの曲で、形式も原作のまま主題と7つの変奏(最後はフィナーレで少々長め)から成る。ところがこれらの変奏がどこかで聞いたような曲ばかり。「奇想曲」の24番以外の曲で用いられている技法を使い、その曲を思い起こさせるような変奏になっているのである。最後の第7変奏には協奏曲第1番も聞こえる。「おたく(パガナー)」でなければ意味の分からぬ名曲。

シュトニケ:ア・パガニーニ
 シュトックハウゼン、ノーノ、ケージ、リゲティなど現代音楽作曲家に影響され、12音体系の洗礼を受けた作曲家のアレンジ。24番による変奏曲で、「パガニ ーニ風」とでもいうタイトル。無伴奏ヴァイオリンだが、何とアンダンテで書かれている。半音階とその間の微細音程を自由に扱って書かれている。哲学的味わいで、何ともいえぬ深みのある曲。

ロックバーグ:カプリース変奏曲
 1970年の作。作曲者は音大の先生。24番による無伴奏ヴァイオリンのための51の変奏曲だった。ここから24曲を選び、順番も大幅に入れ換えて改定されたもの が一般的。それでも約30分の大曲である。
 ノクターン風の導入から入り、5曲目であの主題の変奏だなと分かる展開がある。6曲目にはベートーベンの第7交響曲、7曲目には同じベートーベンの弦楽四重奏「ハープ」のスケルツォ、8曲目にはシューベルト作品9の「舞曲」から22番「ワルツ」、10曲目はショパンの練習曲作品10の11、15曲目はモーツァルトの魔笛、20曲目はマーラーの交響曲第5 番のスケルツォ、21曲目はウェーベルンのパッサカリア……と、様々な曲がイメ ージされていく曲で、最後になってお馴染みの主題が初めて完全な形で登場して締めくくる。マニアもここまで行ったかという作品。
 ミルシテインから始まり、シュトニケ、間にエルンストの「夏の名残のバラ」をはさんでこの曲と、通しで聞くギドン・クレメールのアルバムがドラマチックである。このCDでは、映画でパガニーニに扮したクレメールの写真がジャケットになっていて、この野性的ともいえるクレメールと、解説書にある紳士的なクレメールとが見事な対象となっている。

一柳彗:パガニーニ・パーソナル
 音大のパーカッション科に入学しながら、途中で指揮者に転向した岩城宏之。彼に久しぶりに打楽器を演奏させようという企画が持ち上がり、数人の作曲家が曲を贈った中の一つ。もちろん24番による変奏で、マリンバとピアノのための曲。
 陰にこもって独自の世界を作った作曲者(というのが私の印象)なのだが、この曲はかなり明快な作品と なっている。1982年の作品。

アンドリュー・ロイド・ウェッバー:パガニーニの主題による「スーパー・バリエーション」
 ミュージカル「キャッツ」や「オペラ座の怪人」でお馴染みの作曲家による、独奏チェロを中心とした24番による変奏曲である。シンセサイザーによる幻想的な導入の後、チェロで主題を出し、ジャズバンドと管弦楽を加えた変奏が続く。1曲ごとにブルース、ジャズ、ロックなどとリズムが変わるのが面白い。全体の 構成と雰囲気にはラフマニノフが意識されているように思われる。ポップスといえばそれまでかも知れないが、真のクラシックファンでも鑑賞にたえ得る傑作。残念ながら廃盤になっている。古い話だが、テレビの「ゲバゲバ90分」の挿入曲に使われていた。

バーンズ:パガニーニの主題による幻想変奏曲
 1988年の初演。吹奏楽の人気作曲家であるバーンズが、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」の吹奏楽版を作るという目的で作曲したものという。24番をテーマに20の変奏曲をつけたもの。主題はオーボエ、第1変奏は木管とコルネット、ユーフォニウム、第2変奏はクラリネット、第3変奏はコントラ・アルト・クラリネット……と、楽器を変え、雰囲気を変えた展開が続いている。

ピルスル:パガニーニの主題による練習曲
 無伴奏ハーモニカのための作品。奇想曲9番から始まるが、主題がおかしい。奇想曲24番の変奏になっているのである。これから奇想曲の様々なフレーズを使った変奏が続き、最後に9番が戻って来る。しかし、最後まで24番のテーマそのものは聞こえない。

フリードマン:パガニーニ練習曲
 不明。作品47bとある。

ボタームント:パガニーニ変奏曲
 当然24番による変奏曲のはずだが、日本での演奏記録はまだ見つからない。ただ昭和34年の音楽雑誌にタイトルが見えるのみ。

ネチェポレンコ:パガニーニの主題による変奏曲
 バラライカのための作品。ロシアの演奏家、A.ゴルバチョフのために作られたもの(か?)。もちろんおなじみのメロディによるものだが、バラライカのための練習曲というところらしい。

カセッラ:パガニーニアーナ(管弦楽のためのディヴェルティメント)
 作品66とある。スイス・イタリア管弦楽団という、どこの国か分からない楽団のCDが出ている。オーケストラによる変奏曲。

ウィルソン:パガニーニの主題による変奏曲(4本のクラリネットのための)
 序奏と主題、5つの変奏からなる。主題は4本のクラがトスで回しながら提示、変奏も楽器ごとの掛け合いを意識した作品。最後の変奏は8分の6拍子になるが、ピアニシモですっと終わる終止部もおしゃれ。

インプロピゼーション
 要するに「即興演奏」なのでいくらでもあると思う。リチャード・エルスナーのオルガンでの演奏がCDになっている。知らずに聴くと何の曲かしらと思う。主題の24番が和音で示されてメインメロディが聞こえて来ないのである。

ジャズ・その他
 オイゲン・キケロ・トリオが「春の歌」、ヨーロピアン・ジャズ・トリオが「幻想のアダージョ」というアルバムで、それぞれ24番をとりあげている。もっとあるが、とりあえず新しい作品で、聴いていて楽しいもの。エレキ・ギターでいくつかのフレーズが演奏されているが、まとまったCDなどは不明。

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