その他の作品

オーケストラと独奏ヴァイオリンのための曲(変奏曲を除く)

ヴァイオリンと管弦楽のためのソナタ イ長調「春」 (遺作)
 1838年(死の2年前)、手紙で制作中を伝えている作品。ベートーヴェンの同名のヴァイオリン・ソナタにちなんだタイトルの、いかにも春の雰囲気を持った作品。序奏付きの1楽章形式である。ただし、緩急の対照が見事なので、序奏を第1楽章、中心部を第2楽章と考えれば、いつものパガニーニのスタイルである。
 1837年7月9日トリノを最後に演奏をやめてそのまま死んでしまったので、本人による初演は行われなかったはずである。技巧的ではあるが、それを表面に出し過ぎない。パガニーニ作品としてはおとなしく思われるが、美しい曲である。

ヴァイオリンと管弦楽のためのソナタ イ長調 (遺作)
 本人の記録には演奏はもちろん、作曲したという記録もない。全くの未完成作品と思われる。第1楽章のみで、速い部分がないが、これを思わせるコーダが付いている。未完のオーケストラ部分に変わるピアノ伴奏が付けられたが、演奏される機会もない。(なぜ私は録音を持っているのだろう。不明)

無窮動 ハ長調 (モト・ペルペトゥオ) 作品11
 正式には「無窮動によるアレグロ・ヴィヴァーチェ」という題名。16分音符を休みなく演奏し続ける曲。技巧的だが親しみやすく、演奏会でもよく取り上げられる。常にオクターブの二重音で動き続ける技巧が要求され、完全に弾くことは不可能と思われる。現在ほとんどの演奏家は主旋律のみを演奏している。日本ではNHKフルート教室の教材に取り上げられて話題になった。カーメン・ドラゴ ン指揮のフィラデルフィア交響楽団がトゥッティーで演奏し、全員がピタッと合う非の打ち所のない演奏をしている。パガニーニ自身の手でギター伴奏に編曲したものが1835年に完成したことが分かっており、それ以前の作品である。

常動曲 (ペルペゥエラ)
 1832年初演。前の曲同様16分音符を休みなく演奏し続ける曲。2242個の音符を3分3秒で弾いたと譜面にメモがある。1秒間に12音である。「無窮動」と共に、初心者の練習曲として作ったという説もある。この後のヴァイオリン作曲家がこぞってこの形式を使用している。

 

無伴奏ヴァイオリン曲

24の奇想曲(カプリッチョ) 作品1
 ヴァイオリンのあらゆるテクニックを駆使した作品。彼の技術を盗まれないため、重要な技巧は用いていない。それでも出版直後は誰も演奏できない曲だと噂された。室内楽以外で唯一生前に出版を許した曲。最後の24番が長めの曲だが、ほとんどは3分前後で演奏できる(演奏者によって誤差がある)。
 9番の「狩り」、24番の「主題と変奏」は有名。16番はパガニーニがアンコールで好んで演奏したものとされ、その半音階の持つ雰囲気から「悪魔の微笑」と呼ばれる。特に最後の24番が多くの作曲家によって編曲され、パガニーニは知らずともこの曲は知っているという人も多い。リストの「パガニーニ大練習曲」は、「ラ・カンパネラ」以外は全てこの作品から主題を取っている。

ヴァイオリン・ソロのための二重奏
 人をくった題名だが、パガニーニ・マニアならすぐ理解できる。ヴァイオリンのメロディに左手のピチカートの伴奏がつく曲。この伴奏が半端じゃない。「二重奏」という題名に似合わなくなっていては意味がないのである。

室内楽曲

【総説】パガニーニは、最初はギターとヴァイオリンの両立を考えていたが、10代の後半にヴァイオリン1本で生きる決意をしたという。当然ギターについてもかなりの名手であった。彼の室内楽には必ずヴァイオリンとギターが使用されているのが他の作曲家と大きく異なる点である。

ヴァイオリンとギターのためのソナタ集 作品2・3
 各6曲、計12曲。規制のソナタ形式に捕らわれない、それぞれ緩急の小さな2楽章からなる。曲そのものは単純だが、親しみやすい気軽な作品。難しい技巧は一切使わず、美しい優しさを持つので、女性と同棲していた期間の作といわれるのである。そうすると1800年前後の作品ということになるが、更に以前の習作から拾ったものかも知れない。作品2が優雅で親しみ易い小品がそろっている。
 1900年代になってから、CDでよく取り上げられるようになったが、技巧的な作品3を太い音で演奏した例が多くなっている。

チェントーネ・ディ・ソナタ
 1828年の作、作品64とあるが未詳。タイトルは「ソナタ集」程度の意味。前記の作品2・3のソナタと同じくヴァイオリンとギターのための、2楽章からなる小品が18曲セットになっている。日本で出ているものはCDでも譜面でも、「チェントーネ・ディ・ソナタ」で出ているものは最初の6曲だけである。カナダのクラフトが全曲演奏に取り組み、ようやく全曲が日の目を見ることになった。作品 2・3のソナタ以上に簡略で、これらと同じ頃に作曲されたという説も説得力がある。

協奏的ソナタ(ソナタ・コンチェルタータ) イ長調
 作品61とあるが疑問。前述のソナタでは伴奏に回っていたギターがヴァイオリンと同等に扱われる。三楽章からなる作品。1803年頃に作曲、10代から援助を受 けていたヴェネチアの貴婦人エミリア・ディ・ネグロに献呈されている。

ギターのための大ソナタ ヴァイオリン助奏付き(グランド・ソナタ) イ長調
 作品39とあるが疑問。こちらは完全にギターが中心となった、3楽章・約20分の大曲で、作曲者がギターの技巧にも優れていたことが分かる作品。ギタリストのルイジ・レニーニャと共演していた1830代頃の作品といわれており、次のよう な逸話がある。
 パガニーニの作る曲は自分のヴァイオリンが華やかに活躍して、ギターは単なる伴奏に終わっている。不満を持ったレニーニャが今度は楽器を逆にして演奏してみようと提案し、パガニーニも受け入れた。ところが完成した曲がこの曲で、ギターが主役をつとめ、ヴァイオリンはオブリガードをそえるだけだったという のである。
 面白い話であるが、最近の研究では作曲年代が「協奏曲的ソナタ」と同じ1803年頃とされ、そうなるとレニーニャはわずか13歳ということになり、このエピソードも作り話だということになる。ギター独奏にも編曲されている。第2楽章の美しい旋律が有名で、単独で取り上げられることもある。

カンタービレ(ニ長調)
 ヴァイオリンとギターのための小品。ピアノの譜面も残っている。困難な技巧がほとんどなく、親しみ易い旋律から取り上げられることの多くなった曲である。ヴァイオリン以外の楽器でもよく演奏される。「勇気ある友人カミーリョ・シヴォリ」に捧げられている。 

カンタービレとワルツ
 1823年か翌年の作曲と推定されている。ヴァイオリンとギターのための小品であるが、元はオーケストラ伴奏によるものかも知れない。パガニーニには珍しいワルツが聞きものだが、もちろん聞いただけでパガニーニと分かる。

タランテラ
 活動的な小品。ソナタなどの一部として作ったものかとも推定されるが、リズムに重きを置き、彼のソナタの手法とは似ていない。

ヴァイオリン・ヴィオラ・ギター・チェロのための大四重奏曲 作品4・5
 各3曲、全6曲。数枚のレコードが出たはずだが、あまりにもマニアックなためすぐに廃盤になり、申し訳ないが私も手に入れられなかった。生前に出版した最後の作品集である。途中でヴァイオリンの奏者がギターに持ち替える部分がある。曲を切らずに持ち替えて演奏を続けるのは不可能である。だが、パガニーニ自身はやったはずだ。
 彼の四重奏曲はこの6曲だけのはずであるが、「第7番」「第14番」という演奏記録が手元にあるので、更に研究を要す。

テルツェット
セレナード
 いずれもギターとヴァイオリン、チェロによる三重奏曲。これまたまだ聞く機会がない。

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