P.D.Q.バッハ「未開始交響曲」

 レコードでP.D.Q.バッハを手に入れたのは30年も前。これは公開レコーディングを2枚に収めたもので、「ベスト・オブP.D.Q.バッハ」と「ワースト・オブP.D.Q.バッハ」と題されています。
 このレコードこそ、この作品集の見事さを語るものなのですが、、今日はその中の一曲、「未開始交響曲」を紹介しましょう。題名で分かりますか? 題名は「未完成交響曲」のギャグなのです。直訳は「終わらない交響曲」、それに対して「始まらない交響曲」なのですよ。
 シューベルト「生まれてくるのが遅すぎた」と言って「未完成」を書き上げた……という映画があってこの曲が大人気になった訳ですが、P.D.Q.バッハはその逆で、「生まれてくるのが早過ぎた」と言ったそうです。
 「未完成」は第1楽章と第2楽章しかないのですが、「未開始」は第3楽章と第4楽章しかないのです。
 曲は名曲を次々並べた接続曲なのですが、それだけならホフナング音楽祭やフックト・オンと同じ。この作品がすごいのは、ほとんど2つの曲が同時に展開しているのです。
 例えばフィナーレではフォスターの「草競馬」が始まります。
  ♪エッペッペのラリパがドゥダードゥダー
   エッペッペのラリパがオードゥダディー
(真っ黒けの土人が……とやりたかったのですが、問題になりそうなので……)
 管楽器がここまで(4小節)演奏すると、突然チェロがベートーヴェンの「第九」を演奏し始めます。
  ♪晴れたる青空 ただよう雲よ……
(誰でしょうね、こんなつまらない歌詞をつけた人……岩ちゃんゴメン……「歓喜よ、神の火、天つ乙女よ」という原作の方が桁違いに良いもんで……)
 この後二つの曲が重なる。
  ♪エッペッペのラリパがドゥダードゥダー エッペッペのラリパがオードゥダディー
  ♪小   と り は さ  えず  り    は   や し に  も   りに   
 楽器があったらやってみて下さい。見事に合うんですよ。チャイコの「1812年」と「ユー・アー・マイ・サンシャイン」が重なったり……実に見事に対位法を用いているのです。
 すごいでしょ。この2枚のレコードはこうした手法が実に見事なのです。

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