P.D.Q.バッハ(その1)

 大バッハはJ.S.バッハ、彼には5人の息子がいたのですが、このP.D.Q.バッハは、その6番目の息子です。ピーター・シッケレ教授の研究で、1807年に生まれたことが解明され、1742年には亡くなっていたということが証明されました。作曲技術はそこそこなのに、旋律を作る能力が不足していたようで、他の人の作品を引用した作品が多いのです。アメリカに渡ってブルックリンに住んだことが分かっています。
 まさか真面目に読んでいないでしょうね……もちろん冗談音楽でして……最初に接したのは学生時代、面白かった!
 ラジオで紹介されたのは『P.D.Q.バッハ放送局』。今日はその中の一曲だけを紹介します。
 生中継、ベートーヴェンの「運命」。これは演奏会を生中継しているものです。スポーツアナが曲の展開を伝え、解説者が説明する。これはスゴイ!
「四つの音符によるテーマが開始しました。とてもエキサイティングな導入です。ベートーヴェンの交響曲はいつもエキサイティングです……なかなか進行して行きません。まだグランドになじんでいないのか……(冒頭部の再現)ああっ、第1ヴァイオリンが止まりません。指揮者をみていないのか……ようやく進行を始めたようです」
「どうやらこれが第一主題のようですね」
「それでは、最初の四つの音符は何なんでしょうか」
「そうですね、主題を形成する動機的主題とでもいいましょうか」
「それでよく分かりました。(第二主題の頭)ああっ、ホルンが完全に音を外しました。今のは第一奏者じゃありませんか」
「そうですね、彼は今シーズン3度目の大エラーですね」
「彼の独奏率は3割を超えた程度ですが、来年トレードされるという噂もありますね。どうでしょう」
「そうですね、ラフマニノフの協奏曲などでは見事に演奏するのですから、チームのみんながもり立ててやれば、まだまだ通用すると思うのですが」
「さて、曲は変ホ長調で終止形の和音になります。ここから展開部と考えてよろしいでしょうか」
「そうですね。四つの音符の主題は繰り返されて耳につきますね」
「それを繰り返していますが……さあ弦楽器がフーガを始めます……いや、フーガではありません。弦がフーガを試みたのですが金管がこれに応えません。何かのサインミスか……主題の音を二つの音にしぼって、トスを始めました。それが一つだけになり、生気を失って行きます。おっと、四つの音符の主題です。よく立ち直りました……しかしまだ暗い感じです……おや、どうでしょう、今度は本気になっています。やりました見事な逆転、四つの音符が力強く戻りました」
「ベートーヴェンの交響曲は第3クォーターからが勝負ですね」
「しかし、ここで第1ヴァイオリンが他の奏者を押さえなけば、試合展開が難しくなりますが……おや、オーボエが長い音符を保持しています……彼はカディンツァを吹いているようですよ」
「チームプレーの精神を欠いたけしからんプレーです。しかし、こうした感情の爆発も時には必要でしょう」
「私はいつも言っているのですが、ファンあっての管弦楽ということを忘れてはなりません……第二主題ですが、今度はホルンは上手く吹きました。これからハ短調で進行します……あれ、ハ短調と欠かれているのに、ハ長調で演奏していませんか。これは何かのミスではありませんか」
「そうですね、コミッショナーに提訴すべきだと思います」
「曲はハ長調の終止形となって曲が終わります……おや、終止形の和音が鳴ったのに曲は終わりません。更に展開をしようとしています。この曲は、完全に延長戦に入りました……しかし、音符をトスで回しているばかりです……観客はエキサイトしていますが……ああっ、新しい主題です。この主題はどこから出たんですか」
「これはその、いえ……私には分かりません」
「さあ、試合はどうなるのか、どこで決着がつくのか誰も分かりません……あっ、これは……もしかして終止形の和音では……審判の判定を見ましょう……ああっ、曲は終わったのです。ううん、すごい交響曲ですねえ」
「そうですねすごい交響曲ですよ」
「これで今シーズンのマジックが4となり、優勝は疑いのないところですね」
「そうですね。この指揮者がペナントを手にすれば、トスカニーニ以来の快挙となる訳です」
「それでは指揮者にインタビューをしてみましょう」
 こんな調子で進むのです(途中をかなり省略しました)。最後までどう聞いても野球放送。しかも、ちゃんと客が応援し、歓声を上げているのです。
 日本語で一度やってみたいギャグですねえ。更に加えるなら、
「いよいよフィナーレです。どんな展開をするか、コマーシャルの後で」
 なんてギャグも入れたい。
 尚、曲名も台詞も私の意訳です。多分日本ではレコードが出なかったと思うので。

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